
サプライチェーン障害に備える 止まる時間を短くする3つの実務
ITシステム運用に携わる多くの企業にとって象徴的な出来事として、2026年7月に、ニチレイグループで発生したサイバー攻撃によるシステム障害が挙げられます。同社は冷凍食品メーカーとして知られていますが、国内有数の低温物流(コールドチェーン)事業者でもあります。この物流機能の停止は、同社だけでなく、ケンタッキー・フライド・チキンをはじめとする外食チェーン、食品メーカー、小売業など、広範なサプライチェーンに影響を及ぼしました。
システム障害が公表され、原因がサイバー攻撃であることが明らかになった後、物流機能は数日で順次再開しました。一見すると短期間で収束したように見えますが、ここで本当に問うべきは「何日止まったか」というダウンタイムの長さだけではありません。今回の事例が突きつけたのは、停止の長さだけでなく、その影響がどこまで広がるかという、サプライチェーン全体のリスク管理の重要性です。
サプライチェーン障害が突きつけるITインフラと事業継続の課題
報道では、外食チェーンの営業時間短縮や一部商品の販売休止、スーパーでの欠品、給食や中小メーカーの出荷調整など、多岐にわたる影響が伝えられました。テレビでは、材料が仕入れできなかった食品製造の店主が「まさか、うちも影響受けるとは。初めて納期を遅らせる交渉をした。」と語るシーンも見られました。
この事例が明確にしたのは、システム停止の影響が自社内だけで完結するものではないという事実です。物流網や取引ネットワークを通じて取引先や顧客へ連鎖し、サプライチェーン全体の業務停止につながる可能性が改めて浮き彫りになりました。これは、自社のITインフラが正常に稼働していても、保管、配送、発注、決済といった重要な外部連携機能が一つでも停止すれば、事業継続が困難になることを意味します。
この課題の根源は、業務がどの外部サービスや取引先に依存しているかを十分に把握できていないこと、そしてシステム障害やサイバー攻撃発生時の代替手段が十分に準備されていないことにあります。システム運用・インフラ運用担当者として、まず取り組むべきは、障害原因の分析よりも先に「どの外部機能が停止すると、どの業務が何時間で停止するのか」を明確に整理することです。これは、事業継続計画(BCP)における目標復旧時間(RTO)と目標復旧時点(RPO)を検討する上でも不可欠なプロセスです。
業務停止時間を最小化するための3つの実務
システム障害やサプライチェーン障害による業務停止時間を最小化するための取り組みは、以下の3点に整理できます。これらは大規模なIT投資を伴わなくても、運用設計の改善によって着手可能です。
1. 外部依存関係の可視化とリスク評価
重要業務ごとに、倉庫、配送、決済、通信、連絡基盤などの外部依存を業務フローとして整理し、単一障害点(SPOF: Single Point of Failure)となる箇所を洗い出します。システム構成図やサービスマップを作成し、どのシステムコンポーネントや外部サービスが、どの業務に影響を与えるかを明確に可視化することが重要です。
今回のニチレイグループの事例でいえば、低温物流への依存が見えた時点で、その影響の広がり方はかなり予測できたはずです。自社のITインフラだけでなく、外部サービスとの連携ポイントを明確にすることで、潜在的なリスクを特定し、優先順位を付けて対策を講じることができます。これは、ITインフラのレジリエンスを高める上で不可欠なステップです。
2. 代替手段の事前設計と事業継続計画(BCP)の策定
システム障害やサイバー攻撃発生時に切り替える委託先、手動運用の手順、優先的に継続する商品・サービスの範囲などを、平時から具体的に決めておくことが重要です。これは、事業継続計画(BCP)およびディザスタリカバリ(DR)計画の中核をなす要素です。
例えば、外食チェーンの営業時間短縮や販売休止が発生した局面でも、代替ルートが定義されていれば、停止範囲を限定しやすくなります。具体的な代替策としては、以下のようなものが考えられます。
- 代替ベンダーの確保: 主要な外部サービス(例: クラウドプロバイダー、通信事業者、物流業者)に障害が発生した場合に備え、複数のベンダーとの契約や連携体制を構築する。
- 手動運用手順の確立: システムが停止した場合でも、最低限の業務を継続できるよう、手動でのデータ入力、連絡、処理などの手順を文書化し、訓練を行う。
- 業務の優先順位付け: 全ての業務を同時に復旧させることは困難なため、事業継続に不可欠なコア業務を特定し、その復旧を最優先とする。
- データバックアップとリカバリ戦略: 重要なデータの定期的なバックアップと、迅速なリカバリ手順を確立する。
これらの代替手段は、運用手順書(プレイブックやランブック)として具体的に記述し、関係者間で共有・訓練することで、有事の際の迅速な障害対応と事業継続を可能にします。
3. ダウンタイムの厳格な管理と継続的改善
システム障害発生から15分、30分、60分といった時間軸ごとに、判断者、連絡先、業務継続・停止の判断基準をあらかじめ定めます。これは、インシデント管理プロセスの一部として組み込むべきです。
- 連絡体制の明確化: 障害発生時の連絡フロー、責任者、連絡手段(電話、チャット、メールなど)を事前に定義する。
- 判断基準の策定: どの程度の障害で、どのレベルの対応が必要か、業務継続か停止かの判断を誰が、どのような基準で行うかを明確にする。
- モニタリングとアラート: システムや外部サービスの状況をリアルタイムで監視し、異常を早期に検知する仕組み(モニタリングシステム、アラート)を導入する。
復旧後は、停止時間や機会損失を振り返り、その分析結果を次回の判断基準や運用手順に反映していくことが重要です。スーパーでの欠品や出荷調整のような二次影響は、この時間管理の精度で大きく差が出ます。定期的なレビューと改善サイクルを回すことで、運用管理の成熟度を高め、将来の障害に対するレジリエンスを強化できます。
実践への第一歩:運用設計によるリスクマネジメント
サイバー攻撃そのものを完全に防ぐことは容易ではありません。しかし、「止まる時間」を短くすることは、適切な運用設計とリスクマネジメントによって実現できます。
まずは重要業務を一つ選び、その外部依存の洗い出しと代替手順の確認を月に一度実施するだけでも、障害発生時の初動対応は大きく改善できます。これは、システム運用・インフラ運用担当者が主導できる、費用対効果の高い取り組みです。
営業時間短縮、欠品、出荷調整という今回の連鎖を一過性のニュースで終わらせず、自社の依存関係や代替手順を見直す機会にできるかどうか。そこが、次の混乱で止まる時間を短くできる企業と、影響を受け続ける企業の分かれ目になるでしょう。ITインフラの安定稼働と事業継続は、現代ビジネスにおける最重要課題の一つであり、システム運用担当者の役割はますます重要性を増しています。


